[ 明日のわたしをつくる映画案内 ]

Vol.1 挑戦する勇気を与えてくれる映画

2026.02.13

観るだけで元気が湧いたり、一歩踏み出す力をもらえたり──映画は、私たちの背中をそっと押してくれる存在です。そんな映画が与えてくれる“人生の気付き”をテーマごとに紹介していく本連載。記念すべき第1回は「挑戦する勇気を与えてくれる映画」をお届けします。

Profile

映画案内人 映野あかり

人生に迷ったら映画!がモットー。主人公が困難を乗り越えて成長するストーリーが好きで、作品に忍ばせた細やかな演出意図を読み解くのが密かな楽しみ。映画館では必ずポップコーンを食べる主義。作品に入り込むと、いつのまにか全部食べてしまう。

挑戦する勇気をくれる映画『コーダ あいのうた』

監督・脚本:シアン・ヘダー
出演:エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツァー、マーリー・マトリン(2021/アメリカ、フランス、カナダ)

今回ご紹介するのは、「挑戦する勇気を与えてくれる映画」であり、ハンカチなしでは観られない傑作中の傑作『コーダ あいのうた』。ろう者家族の中でひとりだけ耳の聞こえる高校生のルビーが、家族の通訳をしながら夢である歌の道を切り開いていこうと奮闘するお話です。

ろう者役を当事者が演じることで よりリアルで、社会的に意味のある表現に

この映画、2022年の米アカデミー賞で作品賞と脚色賞、助演男優賞を受賞したことでも話題になったんです。というのもお父さん役のトロイ・コッツァーはろう者の男性俳優で初めてオスカーを受賞、まさに歴史的な出来事でもありました。ちなみに『コーダ あいのうた』はフランス映画『エール!』(2014年)のリメイク。

けれど映画がこれだけ評価された理由は、ろう者の役を当事者である俳優が演じ、監督であるシアン・ヘダーがアメリカ式手話を徹底的に勉強してコーダ(耳の聞こえない親に育てられた子ども)やろう者を取材し、手話監督の友人と話し合いながら脚本を作り上げた点も大いにあります。

“やりたいこと”と“家族の通訳”を両立する 主人公ルビーの頑張りに胸が熱くなる

もちろん主人公ルビーを演じたエミリア・ジョーンズは、9ヶ月に渡るアメリカ式手話の特訓とボイストレーニングという努力の甲斐もあり、英国アカデミー賞主演女優賞にノミネート。

とにかく『コーダ あいのうた』では、自分以外の家族全員がろう者なので、学校に通いながら親の仕事にも通訳として参加しなければいけないヤングケアラー、ルビーの姿にエールを贈らずにはいられません。

そんな中、音楽教師に歌の才能を見出され、親の通訳の隙間を縫って、ペアを組むことになった合唱サークルのメンバーであるマイルズと練習をしたり、音楽教師による個人レッスンに行こうと奮闘します。けれど家族からの急なお願いも多いせいでルビーはレッスンに遅れがち。家から遠く離れた音楽大学への道を諦めそうになったその時、ルビーの才能を両親が知る出来事が起こります。それは歌の発表会でルビーに拍手を贈る観客の姿を見た父親が、彼女の歌声にやっと興味を持ち、自分のために歌って欲しいとお願いしたことからでした。

ただ歌が上手いだけではない 想いが伝わる歌声が心に届く

ルビーはどこかで、自分が居なければ家族は生活出来ないと思い込んでいました。確かに仕事相手が聴者であることが当たり前な世の中なので、家族の耳となり、声となろうとする気持ちは素晴らしいことです。けれど自分を犠牲にしてまで家族の人生を背負おうとするのは違うと、映画は伝えています。大事なのは、自分がどうしたいのか。大好きなことが天職かもしれないと気付いたら、試してみなければきっと後悔する。才能を磨くための努力はもちろん、身近な人たちの協力も必要な場合は、その能力を彼らに見せなければ理解はされません。

ルビーの人生の転機は間違いなく、歌の発表会での観客のリアクションであり、その拍手をもらうための努力が身を結んだ瞬間でした。さらに映画で気付かされたのは、ただ歌が上手いだけでは一流にはなれず、誰かに伝えようとする想いが乗った歌声が人の心を動かすということでした。これって、歌に限らず、学校での発表や会社でのプレゼンなど、自分の考えを伝える場でも同じじゃない? そんなことを見終わって涙を拭いながら考えていたら、さらに泣けてきました。

ルビーが教えてくれる 挑戦する勇気が湧く3つのヒント

Point1:自分の「好き」を信じることから始めてみよう
Point2:背負いこまず、自分の人生を選んでいいと知る
Point3:一歩踏み出して、自分の想いを周りに伝える

何かを変えたいと思っても、状況や環境、そのときの事情を考えると、どうしても慎重になってしまうもの。でもヤングケアラーとして家族を支えながら、自分の「やりたい」をあきらめずに進もうとするルビーの姿を見ていると、今いる場所で少しずつ努力を重ねることの大切さに気づかされます。

この作品を観れば、きっとあなたも少しだけ前に進む勇気がもらえるはず。

そして愛し合う気持ちを信じて、本当の気持ちを伝えることを忘れてはいけないよね、と自分にも言い聞かせてしまう傑作なのです。ちなみにラストシーンでルビーが家族に伝えるハンドサインの意味は「本当に愛している」だそう。名曲も劇中歌われるから、心も身体も清い涙で浄化されること間違いなしですよ!